基礎知識
パワーデバイスと先進はんだ付け技術
目次
電動化およびエネルギー効率化を推進する基礎技術
1. パワーデバイスとは
定義および概要
パワーデバイスとは、大電力を効率的に制御・変換するために設計された半導体素子です。高電圧・大電流を扱いながらも導通損失やスイッチング損失を最小限に抑えられる点が特徴であり、電源管理システム、モータドライブ、産業自動化といった高パワー密度および高エネルギー効率が求められる用途に欠かせません。自動車、再生可能エネルギー、スマートインフラをはじめとする各種分野において、電動化の推進やデジタル変革(DX)の加速に極めて重要な役割を果たしています。
2015年のCOP21でパリ協定が採択されて以来、世界各国で温室効果ガスの排出削減に向けた取り組みが加速しています。その実現には産業機器や輸送分野における「電動化」と「省エネ」が鍵を握っており、パワーデバイスの重要性はかつてないほど高まっています。

インバータとコンバータ:その機能と主要パワーデバイス
パワーエレクトロニクスシステムは、主に「インバータ」と「コンバータ」という2つの核心的な機能ユニットで構成されており、それぞれが電力変換と制御において異なる役割を担っています。
インバータ
インバータは、直流(DC)を交流(AC)に変換する役割を担っています。この変換は、バッテリーや太陽光パネルからの直流電力を交流に変換してモーターを駆動したり、系統電力に接続(系統連携)したりする太陽光発電システムや電気自動車(EV)などで極めて重要です。また、インバータ回路には、効率的なモーター駆動や回生ブレーキを実現するための精度の高い制御と高い変換効率が求められます。
コンバータ
コンバータは、後段(後続)のコンポーネントの要件に合わせて電圧レベルを調整・変換する役割を担います。これには、電圧を引き上げる昇圧(ブースト)コンバータや、電圧を下げる降圧(バック)コンバータが含まれます。コンバータは各種サブシステムを最適な電圧範囲で動作させ、システム全体の効率と信頼性を最大限に高める上で極めて重要な役割を果たしています。
これらの役割を果たすため、インバータやコンバータ回路には高度な半導体デバイス(素子)が組み込まれています。中でも広く使用されている代表的なパワーデバイスには、以下のようなものがあります。
IGBT (Insulated Gate Bipolar Transistors)
IGBTは、バイポーラトランジスタの高電流・高電圧対応力と、MOSFETの高速スイッチング性能および駆動の容易さを兼ね備えたハイブリッド型半導体デバイスです。スイッチング効率と熱管理が極めて重要となるインバータ駆動モーター、コンプレッサー、産業用HVAC(空調)システムなど、中〜大電力用途に最適です。
MOSFET (Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistors)
これらのデバイスは、高速スイッチング、低いゲート駆動電力、そして低〜中電圧域における優れた変換効率を特長としています。MOSFETは、小型化と高効率が強く求められる家電製品、コンピューティング機器、充電式電動工具などのスイッチング電源(SMPS)に幅広く採用されています。
これらのデバイスは一丸となり、現代の電力変換システムを支える技術的骨格を形成しており、自動車、産業機器、再生可能エネルギーといった各種分野における電動化技術の普及を推進しています。
2. パワーデバイスの需要拡大
各産業における応用分野
社会が電動化、デジタル化、そして脱炭素化に向けて加速する中、パワーデバイスの需要はあらゆる産業で急速に高まっています。主なトレンドは以下の通りです。
自動車・モビリティ分野の電動化
自動車産業が内燃機関(ガソリン車等)から電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)へと移行する中、パワーデバイスは車載インバータ、急速充電器、バッテリーマネジメントシステム(BMS)に不可欠な存在となっています。
再生可能エネルギーの主力電源化
太陽光や風力発電システムに使われるインバータや電力変換システムには、電力を効率よく変換・供給するために、高耐圧で耐熱性に優れたパワーデバイスが組み込まれています。これらの技術により、日照や風力の変動に合わせた緻密なエネルギー制御が可能となります。
スマート家電および住宅用システム
エアコン、冷蔵庫、洗濯機などの省エネ家電には、小型で効率性に優れたパワーデバイスを組み込んだインバータモジュールが採用されています。これらのデバイスは、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の普及やスマートグリッドとの連携・機能向上にも貢献しています。
先進的産業用機器・設備
ファクトリーオートメーション(FA)において、インバータはモーターを駆動しサーボ制御を実現することで、高効率な生産システムを支えています。高周波・高耐圧なパワーデバイスは、次世代の産業用ロボットや精密機械に不可欠なコア技術となっています。
情報通信インフラ
パワーデバイスは、5G基地局やデータセンターをはじめとする大電力ITインフラに不可欠であり、電源回路の小型化と省電力化を支えています。特にガリウムナイトライド(GaN)系デバイスは、高周波スイッチング用途での採用が急速に広がっています。

電動化の推進:ワイドバンドギャップ(WBG)半導体によるEV革命とカーボンニュートラル実現への貢献
脱炭素化とサステナブルなモビリティに向けた世界的な動向により、電気自動車(EV)の普及が急速に進んでおり、自動車・エネルギー業界に大きなパラダイムシフトをもたらしています。この変革は単なる駆動源の転換にとどまらず、車両の電動化、部品の小型軽量化、さらには再生可能エネルギーシステムとの連携・統合までを含む包括的なモビリティ革命です。
EVの普及に伴い、インバータ、オンボードチャージャー(車載充電器)、DC-DCコンバータといった重要部品を中心に、高パフォーマンスなパワーエレクトロニクスへの需要が高まっています。これらの部品は、バッテリー、モーター、周辺システム間におけるエネルギー移動を効率的に制御します。高電力密度化、高速スイッチング、優れた熱安定性といった性能要件を満たすため、業界ではワイドバンドギャップ(WBG)半導体、特に炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)への移行が進んでいます。
WBG材料は、従来のシリコン(Si)ベースのデバイスと比較して次のような大きな優位性を備えています。
炭化ケイ素(SiC)
より高い電圧(1200V以上)での動作が可能なため、EVパワートレインのメインインバータ(トラクションインバータ)に最適です。また、SiC(シリコンカーバイド)の低いスイッチング損失と高い熱伝導率は、システム全体の効率向上と冷却構造の簡素化に貢献し、装置の小型・軽量化を実現します。
窒化ガリウム(GaN)
超高速スイッチングと低オン抵抗を兼ね備えたGaN(ガリウムナイトライド)は、高効率化と小型化が強く求められる車載充電器(OBC)やDC-DCコンバータに特に適しています。GaNベースのシステムは電磁干渉(EMI)の大幅な低減を可能にし、より高周波でのスイッチングを実現するため、受動部品の格段な小型化につながります。
このような小型化は、機体・駆動系を一体化したパワートレインモジュールや800VバッテリーシステムといったEVアーキテクチャの進化を直接的に後押しし、さらなる急速充電の実現と航続距離の伸長に貢献します。
さらに、車両の電動化は再生可能エネルギーのインフラと密接に関連し合っています。EVは単なる電力の消費体にとどまらず、V2G(Vehicle-to-Grid)環境においては移動型の蓄電システムとしての役割も果たします。この相互作用(シナジー効果)により、双方向インバータや堅牢な電力変換システムの必要性がますます高まっており、ここでもWBG半導体が重要な役割を担っています。
総じて、EV技術の進歩、機器の小型化へのトレンド、そして再生可能エネルギーシステムとの連携・統合が相乗効果となり、高効率・高信頼性パワーデバイスの開発と普及を力強く牽引しています。これらの技術は、輸送分野にとどまらず、カーボンニュートラルの実現を目指すあらゆる産業において、現在進行中の電動化運動の強固な基盤となっています。
市場動向と展望
市場調査によると、世界のパワーデバイス市場は2020年代後半までに数兆円規模に達すると予測されています。この成長は、世界各国における環境政策を追い風としたEV(電気自動車)の普及拡大と再生可能エネルギーの導入加速が主因です。社会の脱炭素化に向けた動きが進むなか、次世代パワーデバイスの研究開発(R&D)が一層活発化しており、技術革新と商用化のスピードがさらに加速しています。

3. パワーデバイス実装の課題とはんだ付け技術
パワーデバイス向け主要接合材料
パワーデバイスの製造において、はんだ材料は幅広く使用されています。図に示すように、はんだ付けは主にダイボンディング部やヒートシンク接合部に採用されています。接合工程では、ロジン系フラックスとはんだ粉末で構成されるはんだペーストや、はんだプリフォームといった材料が用いられます。また、加熱によって界面での原子結合を形成し、接合部を構築する焼結(シンタリング)材料が使用されるケースもあります。
はんだ材料の種類
Pb-Sn, Au-Sn, Sn-Ag-Cu, Sn-Ag, Sn-Cu, Sn-Sb ベース
焼結(シンタリング)材料の種類
Ag, Ni, Cu シンタリングペースト
パワーデバイスの主なはんだ付け部位
パワーデバイスは多層・複合構造となっており、いくつかの主要な接合部位が存在します。各接合部には、それぞれに最適化されたはんだ材料と接合技術が求められます。
ダイ/チップ ボンディング箇所
半導体チップと金属ベース基板を接合する部位であり、放熱と電気的接続を確実に行うため、優れた熱伝導性と高い耐熱性を持つ材料が必要です。
ヒートシンク接合部
デバイスの背面や基板をヒートシンクに接合し、放熱効果を高めます。この部分にボイドや接合不良があると熱伝導が大幅に阻害されるため、高い品質管理が求められます。
NTC・端子接合部
外部端子やNTC温度センサを接合する箇所です。熱サイクルに耐える導電性と柔軟性を備え、ファインピッチな部品実装に対応できるはんだ材料が必要です。

はんだ付けの課題と接合材料に求められる主な特性
パワーデバイスは、高温・大電流・高電圧・高周波といった過酷な条件化で稼働します。近年はワイドバンドギャップ半導体の普及に伴い動作温度がさらに高まり、実装時に使用される接合材料への要求も一段と厳しくなっています。
課題
高い熱伝導性(優れた放熱性)が不可欠です。特に大型チップや基板の接合では、はんだ接合部にできるボイドが熱の逃げ道を塞いでしまうため、ボイドの低減が極めて重要な課題となります。
対策1:接合材料の機能向上・改良
ソルダーペーストなどの一般的な接合材料には、基板や部品、はんだ粉末表面の酸化膜を取り除くためにフラックスが含まれています。フラックスの還元力と揮発性を最適に設計することでボイドを極力抑えられますが、パワーデバイスの製造でははんだ付け後にフラックス成分が残るため、リフロー後に残渣をきれいに洗い流す洗浄工程が必要になります。
対策2:工程改善 – ギ酸リフローを用いたボイド抑制
ロジンなどの従来型フラックスの代わりにギ酸を還元剤として用いることで、フラックスガスの発生そのものを防ぎ、ボイドを大幅に削減します。はんだ溶融時に減圧(真空)リフローを組み合わせれば、残留したボイドをさらに強力に脱泡・排出できます。
4. 次世代はんだ材料「Eシリーズ」のご紹介
これらの技術課題を解決するため、弘輝はギ酸リフローに対応し、圧倒的な低ボイド性能を誇るパワーデバイス専用ソルダーペーストを開発しました。業界で初めて「フラックス残渣ゼロ」を達成した、まさに画期的な新技術です。
以下に、Eシリーズの主な特長をご紹介します。
超低ボイド接合技術
ギ酸リフローとの組み合わせにより、極限までの低ボイド性能を発揮します。Eシリーズのフラックスは非常に揮発しやすく、プリヒート段階でほとんどが気化するため、はんだ溶融時の残存フラックスが大幅に減少し、圧倒的なボイド低減を実現します。

フラックス残渣ゼロ技術
リフロー後のフラックス残渣を無くし、クリーンなはんだ接合面を実現。モールド工程やワイヤボンディング前に行っていた洗浄工程が不要になります。工程の大幅なスリム化により、環境負荷の低減と製造コストの削減に直接貢献します。
「フラックス残渣ゼロ」がもたらす3つのメリット / 主な特長と導入効果
・生産工程の簡略化:洗浄工程の省略
・環境負荷低減:洗浄工程における廃水発生の排除
・コスト削減:工程の最適化によるコスト低減と生産性向上

超低ボイドの実現にとどまらず、一般的なはんだプリフォームとは異なる「ソルダーペースト」タイプのため、塗布や位置決めなどの作業性が抜群です。自動化ラインへの組み込みも容易で、パワーデバイスの大量生産に最適です。
工程適応性・高いプロセス汎用性
・治具着脱プロセスの不要化による工程削減
・印刷条件の変更によるはんだ厚みの容易な調整
・印刷・ディスペンスの両工法に対応
・微細・狭ピッチパターンも自在に形成
・量産中の設計変更へ柔軟に対応
5. まとめ
電動化や省エネ化が加速する現代において、パワーデバイスはあらゆる産業の根幹を支える重要パーツです。そして、より過酷な環境下でも安定した性能と高信頼性を発揮させるためには、最先端のはんだ付け技術が欠かせません。
Eシリーズ ソルダーペーストは、製造プロセスの合理化にとどまらず、世界的なグリーン化・高効率化の波に応える「革新的なソリューション」です。ボイドの大幅低減とフラックス残渣ゼロ化により、カーボンニュートラルの達成に不可欠な次世代パワーデバイスの普及を加速。高い品質と優れた生産性を両立させ、強固で環境に優しいものづくりに貢献します。
参考資料・関連リンク